2011/08/31

テシタル地上派 009 第六天神社の巻 その一

「髑髏城の七人」大阪公演と東京公演の合間、我々役者はお休みを頂きまして、まあ中には仕事が入っているゲスト陣もいらっしゃいましょうが、少なくとも私はお休みでして、芝居を見に行ったり部屋を片付けたり病院に行ったりゆっくり休んだり、色々としておりました。

そして私は今、茅ヶ崎におります。茅ヶ崎。サザンオールスターズの歌詞の中でしか聞いたことのない街。なんか、湘南にある街。サーファーが多い街。国道一号線沿いに、ひいては東海道沿いにある街。相模川河口にある砂洲に守られた風光明媚な街。
後半、単なる地形マニアの歴史と地形による興味の方が勝っちゃっていますが、まあとにかくそういう街です。東海道の藤沢宿と平塚宿に挟まれた単なる農村と漁港の街でしたが、その海の恵みによる海水浴とサーフィンの街として、そして何よりもサザンオールスターズ(特に桑田佳祐さん)の愛する街として近年有名になった街です。

何故私がそんな茅ヶ崎を訪れたのか。泳ぎに来たのか? 波に乗りに来たのか? そんなワケはありません。自慢じゃありませんが、海で泳いだ最後の記憶は大学生の時です。子供の頃でも、夏には海が良いか山が良いかと問われれば即座に山と答えてしまった私です。山登りの方が好きだったんです。加えてアトピーだったので、荒れた肌を晒したくなかったのも理由の一つです。いまだに人前に肌をさらすのには抵抗があります。サーフィンなんて一度もしたことがありませんさ。
そんな海嫌いな私が茅ヶ崎に行ったのですから、当然海が目的ではありません。茅ヶ崎市十間坂にある「第六天神社」が目的です。第六天神社? 聞き慣れない神社ですね。稲荷神社とか氷川神社とか八幡神社ならどこにでもあるでしょうが、第六天神社とは聞き慣れないかもしれません。しかし、かつては日本中に多く祀られていたらしいのです。それがなぜ数少なくなってしまったのか。

ある程度歴史に詳しい歴女のお姉様方なら、織田信長が自らを「第六天魔王」と名乗ったという話を聞いたことがあるかもしれません。仏教に於いて世界は三界(無色界・色界・欲界)に分類されます。「三界に枷無し」の三界ですね。無色界と色界、そして欲界の上の方までが天界。欲界のなかばが人間界で、下が地獄界です。欲界上方の天界の部分が「六欲天」で、神様でありながら欲にとらわれる六つの天界を指します。この六欲天には四天王とか兜率天とかが居るのですが、その最上位、つまり色界のすぐ下に居るのが「他化自在天(たけじざいてん)」、すなわち下から数えて六番目なので第六天なのです。
この他化自在天というのは欲界の最上位であり、波旬(はじゅん)という名前なのですが、これを別名で「第六天魔王」と呼ぶのですね。身の丈二里(約8km)、寿命も16,000年(ただしその一日は人間の1600年に相当する)という想像を絶するサイズ。他人の快楽を自在に自分の物にするコトができ、仏道修行者を仏法から遠ざけようとする魔王であり、その性格からヒンドゥー教の破壊神・シヴァとも同一視されます。キリスト教で言えばサタンとかメフィストフェレスに当たりますかね。
その破壊神的部分を信長が気に入って、それまでの常識や価値観を破壊する姿勢(常備軍、商業重視、宗教弾圧)をもって自らを第六天魔王と称したと言われています。要するに全てを破壊してやるぜ、という意思表示なのですね。まさに信長にはピッタリのイメージです。史実かどうかは疑わしい物も有りますが、とりあえずイメージには合っているってコトですよ。

実際に第六天魔王の法力は強かったらしく、全国に多くの「第六天社」によって祀られたり、個人的に信仰されたりもしていたようです。しかし、信長の死後天下を取った豊臣秀吉がその強力さを恐れ、全国の第六天社を弾圧し廃社に追い込んだともいいます。よって、西日本では第六天神社は皆無に等しく、東日本にいくつか残されているだけだとか。

これが第六天神社と信長、秀吉の因縁。で、それとは別に神仏分離令による数の減少もあったそうです。
そもそも仏教の神様である他化自在天が、神道である神社に祀られているというのもおかしな話でしょ。昔は神仏混淆といって、仏教の神様も、神道の神様も一緒くたに考えられており、同時に祀られていたりもしました。寺と神社がセットで建立されたり。別当寺などがそうですね。
それが明治初期の神仏分離令によって寺と神社が厳密に区別されることになり、一緒に立っていた寺と神社が離されたりしました。また、神仏習合でごっちゃに祀られていた祭神も修整され、神社では仏教の神を祀ることはできなくなりました。
なので、東日本に数少なく残された第六天神社は祭神と共に名前を変えた例も多かったようです。
そして、現在第六天神社という名前を持つ神社は関東に十社ほどあるようなのですが、神仏分離令の時にそのほとんどが祭神を「おもだるのかみ・いもあやかしこねのかみ」の二柱に変更したそうなのです。この二柱は日本神話に於ける神代七代の六代目であり、それでまあ「第六天」に当たるってコトで祀られているのです。ちなみに七代目がかの有名な「いざなぎ・いざなみ」ですよ。

ああ、第六天の説明だけで長くなっちゃった。ので、続きは次回。
ちなみに、本稿は色んな資料をかみ砕いて説明しているので正しくない場合もありますので、その点だけはご了承下さい。ていうか、私の説明はいつもそうなんですけどね。