2020/06/21

地テシ:154 「Detroit: Become Human」をプレイして頂きたい の巻

四週に渡ってお送りして参りました「SSP動画まつり」は終了致しましたが、6/19からは全国の映画館でゲキ×シネのセレクション上映が始まり、7/10からは「けむりの軍団」の上映も始まります。次は映画館でお楽しみ下さい。

さて、ステイホームが推奨された今年の4月と5月。この6月に入ってから徐々に忙しくなってきた私ですが、4、5月の頃は仕事も無く、ステイホームしながら部屋の片付けと自宅フィットネスと、そしてゲームを主にやっておりました。
ゲームといいましても、主にプレイしていたのはコレまでに書いてきたおウチでゲームでフィットネスなアクティビティのゲームに費やす時間が長かったのですが、いわゆる普通のゲームも色々と楽しんでおりました。

でね、そんな楽しいゲームの中、今日ご紹介したいのが「詳しく説明してしまうと面白さが損なわれるゲーム」についてです。

内容について詳しく説明してしまうと面白さが損なわれるゲームというのはママありますよね。例えば推理アドベンチャー。これはもう推理小説と同じですから、真犯人を教えるなんてのはもってのほかとしても、捜査のヒントを与えられるだけでも大きなマイナスとなる場合があります。「意外な人が真犯人」と言われただけでもグッと面白さが減ってしまいます。
あとは、ストーリー展開が面白いロールプレイングゲームなどでも同様でしょう。主要なキャラクターが死んじゃうとか途中で裏切るとか、そういうのを先に言われてしまうと驚きが無くなってしまうんですよね。できるだけ先入観の無い状態でプレイするのが望ましい。
そういったストーリー上の仕掛けというか驚きの大きい作品は名作として語り継がれているので、今ではほぼ公然の秘密みたいになっていたりしますね。例えばファミコン時代で言えば「ポートピア殺人事件」とか「女神転生II」とかが有名ですかね。やっぱり言えば言うほどマズイな。




最近プレイしたPS4の「Detroit: Become Human」も同様のタイプです。リアルなグラフィックで描かれる、アンドロイドが生活に欠かせなくなっている近未来でのアドベンチャーゲーム。三体のアンドロイドを順番に操作しながらストーリーが進んでいきます。
美麗でオシャレなグラフィックではありますが、ストーリーの要所要所で選択肢が示され、その選択によってストーリーが変化していくというシステムは往年のテキストアドベンチャーを彷彿とさせます。

テキストアドベンチャーとは、かつてパソコンゲームの黎明期に興った叙述ゲームで、文字のみで状況が説明され、それに対して簡単な文字コマンド(GO WESTとかTAKE BOOKとか)でアクションをしてストーリーを進めていきます。プレイできる小説といった感じですね。簡素なグラフィックが添えられている場合もあります。チュンソフトの「サウンドノベル」シリーズもこの系譜上にあります。
同様にテーブルトークロールプレイングゲーム(TTRPG)も思い出させます。TTRPGはいわゆるテレビゲームではなく、紙と鉛筆とサイコロなどを使ったアナログゲームでして、数人のプレイヤーと一人のゲームマスターがルールブックに則った行動をしながら冒険していきます。宝箱を開けたり落とし穴に落ちたり敵と戦ったりといったアクションを、サイコロなどで成否を判定しながらゲームマスターがジャッジして進めていくのですね。このシステムを書籍上で再現した「ゲームブック」というのも存在しました。

要するに、この「Detroit: Become Human」は最先端の美麗なグラフィックで彩られてはいますが、感触としては実にアナログな印象のゲームです。自分の操作するアンドロイドの行動を選択してストーリーを展開していき、時には時間制限のあるボタン操作で成否が判定されるという、今風の表層ながら古風なシステムも感じられるという面白い構造になっています。

でね、この「D:BH」なんですが、始めは敬遠していたんですよ。今どき選択肢を選んでいくだけのアドベンチャーゲームなんて、みたいな偏見があったのかもしれません。ですが、このゲームがPlayStation Plusのフリープレイ(会員だけが無料でダウンロードできるゲーム)になった時に思いだしたのです。かつて選択肢を選んでいくだけのアドベンチャーなのに、夢中になったゲームがあったことを。

それはチュンソフトの「街 〜運命の交差点〜」。1998年にセガサターンで発売されたこのソフトは、後にPSやPSPにも移植され、コアなファンを輩出したことでも有名です。
8人の主人公が渋谷で過ごす5日間を描いた作品で、小説を読むようにストーリーを進めていくと選択肢が現れ、そこでの選択がその主人公の行動を決めるだけでなく、他の主人公の運命をも変えてしまうというマルチフラグメントシステムを採っておりました。
なので、ある主人公のストーリーを進めているとどうしても手詰まりになってしまうのです。そうなったら、別の主人公に切り替えて進めてみる。すると、新たな展開が起こって先に進めるのです。このザッピングシステムも革新的でした。
主人公が8人もいるので、それぞれの作風が違うのも面白い。サスペンス調だったりコメディ風だったり、様々なテイストでプレイヤーを飽きさせません。
エンディングを迎えても、隠しシナリオが現れたり、他の選択肢も試してみたくなったりして、繰り返しプレイしてしまうのです。もうしゃぶり尽くしたのにSS版の後にPS版もプレイしてしまったほどハマったゲームでした。

そこで「D:BH」ですよ。このゲームでもかなりシリアスな選択肢が随所にあり、しかもそれぞれの選択が他の主人公に影響を与えたりもするので、選択にも熟慮が必要になります。これは「街」好きには堪りませんよね。
とはいえ、「街」のようなザッピングシステムで巻き戻すのが主眼ではなく、選んだ結果に則ってストーリーはガンガン進みます。フローチャートシステムを使えば、ちょっと戻ってプレイし直すコトもできるのですが、そうしようとするとシステム側から「ストーリーが変わってしまいますよ」と、やんわりと止められるんです。そんなこと言われたら、まあ、ここはこのまま進めようと決意しますよね。
正直な話、「ココであっちの選択肢を選んでいたらどうなったんだろう」と思い続けながらプレイしていました。こりゃぁ「街」の時と同じように、エンディングの後に何度もプレイしてしまうなぁ、と。

ええと、結論から言いますと、私はこのゲームを一度しかプレイしていません。ええ、やり直さなかったんです。

ゲームのエンディングでスタッフクレジットが流れる中、ゲーム画面がフラッシュバックするのですが、そこには私が見たことの無いシーンがたくさんありました。クリア後にネットでプレイレビューなどを検索してみると、それはそれはたくさんの多彩なストーリーが出てきて驚きました。こんなにたくさんの分岐ストーリーがあるのか、と。
ゲームのオープニングでナビゲーター役であるアンドロイドのクロエ(初めてチューリングテストに合格したアンドロイド)が操作を教えてくれるのですが、クロエが言う、このゲームのメインコピーでもある「これは、あなたの物語」というセリフがあります。このセリフが全てを物語っています。

プレイしながら、アンドロイドたちはどのような選択をするのがベストだろうと考えていました。しかし、途中から「自分ならばどれを選択するだろう」という気持ちに変わっていったのです。まさに「自分の物語」をプレイしていったのです。
その結果は自分の物語ですから受け入れるしかありません。選択を選び直して別のストーリーをプレイしても、それは自分の物語ではありません。だって選び直しているんですから。
そう思ってしまったら、なんかこう、プレイし直す気持ちでは無くなってしまったんですよね。このストーリーを受け入れようと思ったのです。

たまたま私は比較的グッドな結末を迎えたようですが、どうやら、それはそれは多彩なエンディングが用意されているようです。かなり悲観的なエンディングもあるようなんですね。
でも、私にとってはこのゲームのエンディングはコレなんだと思ったら、コレでいいやと思ってしまったのです。

ゲームの特典映像として、メイキングムービーが収録されていました。三人の主人公の為に、三人の作曲家がそれぞれの担当の音楽を作ったとか、複雑なストーリーを創作するために多大な苦労を払ったとか、とても興味深い裏話が語られていましたが、私が一番面白いと思ったのはモーションキャプチャーを使った各キャラクターの収録風景でした。それぞれのキャラクターが、それぞれを演じた役者さんにそっくりだったんです。モデリングだけではなく、動きも表情も役者さんに限りなく寄せて作られていました。
それを見た時に、この作品に対する制作陣の真摯な姿勢と苦労がハッキリと見えて、それを尊重する気持ちになったのです。

好きな映画なら、そのストーリー展開が自分の好みと違っても納得できますよね。「そうなっちゃんたんだ、でも面白いよね」という気持ちになりますよね。そんな気持ちになっちゃったんです。これが、私にとっての「D:BH」なんだってね。
だから、これでいいんです。これが私の「D:BH」なんです。制作陣の意図とは違うかもしれませんが、私はプレイし直しませんでした。多彩な選択肢を体験することはできませんでしたが、これでいいんです。楽しみながら結末に満足しました。ちょっと不本意ではありますが、これが結末なんだと納得しました。

そして「D:BH」は私の記憶に強く残る作品となりました。今の私の願いは、より多くの人に「D:BH」をプレイして頂き、より多くの結末を紡ぎ出して欲しいというコトです。こんなコトならフリープレイじゃなくて、ちゃんと買ってプレイすればよかった。それくらい価値のあるゲームだったのです。

「D:BH」の発売日は2018年5月。二年前の作品です。そのプレイレビューを二年後に投稿されて、しかもプレイを薦められても困ると思いますが、面白かったんだからしょうがない。PS Storeには体験版もありますので、是非。


でね、「詳しく説明してしまうと面白さが損なわれるゲーム」はたくさんあるのですが「ちょっとでも説明してしまうと面白さが損なわれるゲーム」というのは中々ありません。でも、そんな繊細な作品にも出逢ってしまったのです。ええと、それについては次回。



それと、今後の仕事についてもいくつか発表されました。
まずはSSP関連で、グッズを購入して下さった方に差し上げるオマケとして、かつての新感線ファンクラブ会報というのが復活することになりました。私が編集長を務めております。詳しくはこちら
それと、松重豊さんが店長を務めるFm yokohamaの番組「深夜の音楽食堂」にリモートゲストで出演することも発表されました。三度目の出演ですが、毎度本当に楽しい音楽談義ができて幸せな時間でした。神奈川近辺でなくてもradikoなどのアプリなら全国から聴けますよ。6/30の深夜です。どうぞよろしくお願い致します。